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第五章


 翌日の早朝。
 水面に浮上したGは、直ちに偵察衛星の捉えるところとなった。
 関係各方面には、G対策本部からすぐさま臨戦態勢に入るよう指示が出され、VR研にもVR−Gの始動が通達された。

 急遽X島から呼び戻された啓士は、慌ただしくシステムの最終チェックに入り、一方、宏幸は対策本部に直行して、GをX島に誘導するための作戦に参加した。
 そして由記には、…出番はなかった。

 もし、彼女がVR−Gチームの一員で任務に忙殺されていれば、昨晩の件は頭の片隅に追いやられて、あれこれ悩まされることもなかったろう。だが、そうではなかった。
 この非常時にあっても、やはり彼女の最大の関心事はあのことだった。

 勿論、今回のG出現とあのこととの間に関係がある、との確信がある訳ではなかった。単なる偶然かもしれなかった。それにもし関係があるとしても、そのことが今後にどう影響するのか、それも分からなかった。

 由記は、何度も啓士に告げようと試みた。だが、彼は全く取り合ってくれようとはしなかった。無理もない。啓士にとってここ数年の日々は、全てこの時の為にあったのだ。そして由記にも、そのことは痛いほど理解できた。

 長い眠りから目覚めたGが、最初にするのがエネルギーの補充であることは、過去の行動パターンからも容易に想像が出来た。

 そのため、X島には放射性物質が運び込まれてあった。さらに万全を期すため、放射性物質の入ったブイを搭載した輸送機が、Gを目指して急行していた。Gの鼻先に次々と投下しつつ、島まで誘導しようというのだった。

 今回の作戦では、武力攻勢は最小限におさえることになっていた。もっとも、最新兵器といえども、さしたる効果を挙げられないこともまた、過去の実績が物語っていた。
 全ては、VR−Gに委ねられた。

 午前九時過ぎ。
 Gに向けて最初のブイが投下された。そして思惑通り、Gが食いついた。
 投下されるブイに誘われて、GはX島へと進路をとった。

 島では、最後の調整が急ピッチで進められていた。完成度は九十パーセント程度で、できればあと1週間は欲しかったところだが、贅沢は言っていられなかった。Gに待ったは通用しない。

 とはいうものの、実用上は何の問題もないはずであった。
 殆どぶっつけ本番に近かったが、関係者にはやれることは全てやったという、密かな満足感があった。

 午前十時過ぎ。
 プローブとセンサを仕込んだ対艦ミサイルを搭載した攻撃機が、Gに接触した。
 プローブは計10発発射され、うち7本が命中、最終的に3本が視神経に取り付くことに成功し、センサは3本のうち2本が頭部に命中、直ちにデータを送信し始めた。

 午前十一時過ぎ。
 最後まで残った調整チームが、ヘリで島を離れた。
 あとは上陸を待つばかりとなった。

 正午を少し回った頃。
 Gが上陸した。早速、山積みされた放射性物質に取り付くと、エネルギーの補給を始めた。計画は、最終段階へと突入した。

 結局、由記は単身、琢磨の別荘に向かうことを決意した。Gの件だけではない。何もかもが気になったからだ。
 由記は啓士宛てに電子メールを1通発信し、念のためにプリントアウトしたものを机の上に置くと、自室を出た。

 玄関ホールに向かう途中、由記は純一とすれ違った。後ろから純一の声がしたが、由記の耳にはまるで届かなかった。
 構わず駐車場へと向かう由記の姿を、純一は呆然と見送るしかなかった。

 コントロールルームには、それまでとは違う緊張が走っていた。
 いよいよシステムの真価が問われる瞬間がやってきたのだ。

「フェイズ1開始」
 啓士の声も、いくぶんか上ずっているように聞こえた。
 オペレータが、コマンドを打ち込んだ。

「プローブ接続」「受信を確認」「データ転送、問題ありません」
 静まり返ったコントロールルームに、オペレータの乾いた声が断続的に響いた。

 啓士は、コンソールのモニタを覗き込んだ。表示を見る限り、確かにプローブは機能しているようだった。次いで啓士の視線は一転、正面の壁面に設置された湾曲したスクリーンに向けられた。そこにはGに送られている立体映像と同じものが、同時に投影されていたからだ。

 そこに展開されている光景は、それまでGが見ていたものと寸分違わぬものだった。これは、Gに違和感を覚えさせずにVRの世界に誘うための配慮からだった。

 Gの外見の様子も、センサから送られてくる生理情報にも、変化はなかった。このことは映像が正しく送られているか、または全く送られていないかのどちらかであることを示していた。どちらであるかは、現段階では判定できない。

「フェイズ2開始」
 啓士は新たな段階へと進むべく、指示を出した。少なくともこれで、一つの答えが得られる。

 スクリーンの一角、島の中央部方向に、忽然と都市が出現した。勿論VR映像である。もし、Gにも正しく送られていれば、これで何らかの変化が現れる筈だった。一同の目は、Gの顔を映し出すモニタと、生理情報を表示するモニタの間をせわしなく移動した。

 Gの表情が、わずかに動いた。同時に、
「脳波に変化。間違いありません。映像を認識しています」
 生理情報の分析を担当する専門の所員が、興奮を抑え切れずに叫んだ。

 その瞬間、コントロールルームのそこここで小さなざわめきが起こった。が、すぐに収まった。確かにここまでは順調に来た。だが、先はまだまだ長いことを全員が熟知していたからだ。

 Gが、ゆっくり都市の方に向かって歩き出した。
−いける−
 啓士は直感的に、この作戦の成功を確信した。


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