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第四章


 食事が終わると、二時間の休憩後、今度は射撃訓練が待ち受けていた。臥せ射ち、膝射ち、立ち射ち、といった基本的な射ち方から、バリケードを使った実戦的な射ち方まで、たっぷり三時間、休みなしに続けられた。

 ガス発射方式の最大の利点は、ガス圧を調整することで、威力をコントロールすることが可能なことだ。従って、訓練時には銃の発射ガス圧を半分以下に落とし、標的も柔らかい樹脂製のものをつかうことによって、発射された弾丸を繰り返し使うことができる。
 距離を短くすれば、着弾もそれほど狂うことがない。そのうえ、ガス圧を弱くするということは、発射回数を増やすことにもつながるため、より訓練の効率を上げることができる。

 昼食と、二時間の休みを挟んで、午後の訓練が始まった。今度のは午前中の訓練と違って、実戦を想定した模擬戦闘訓練だった。

「これからお前達を二つのグループに分ける。暗号名は『レッドイーグル』と『ブルーファルコン』だ。レッドイーグルがオフェンス、ブルーファルコンがディフェンスを担当する。オフェンスの指揮は軍曹が、ディフェンスの指揮は俺がとる。戦場はこの作業デッキから、中央の第十二ブロックまでだ。方法はお前達がよく知っているフラッグ取りだ。弾丸はペイント弾を使用し、一発でも当たれば、そこでデッドだ。時間は一時間。では今から軍曹が名前を読み上げるので、呼ばれた者は前へ出るように。呼ばれた者が、レッドイーグルだ」

 軍曹が、手にしたリストを読み上げ始めた。
「サラヴァンディ、ブラウン、タカハシ、アンダーソン、ウェイブ、マイケル各候補生。以上だ」
「中尉」
 すかさずジャンが発言を求めた。
「なんだ」
 中尉は彼が何を言いたいか、先刻ご承知といった顔で応えた。

「自分たちは士官学校の模擬戦においては、常に特定のパートナーと組んでおりました。今回も、訓練の効率化を考えて、本来の相手と組みたいのでありますが」
「なんだ、えらく熱心だな。急にやる気が出たようだな、ヴェルダン候補生。お前はいつもは誰と組んでいるんだ」
「アンダーソン候補生であります」
「なるほど。ところで、そんなにいいか、彼女」

「え?」
 一瞬言葉に詰まったのは、中尉がどういうニュアンスで言ったのかが分からなかったからだった。
「まあいい。答えを言おう。ノーだ。ただし、ヴェルダン候補生。ブルーがもし勝ったら、明日の模擬戦はお前の言う本来のパートナーを認めよう。それなら文句ないだろう」
「ところで八百長になっちまったら何にもならんからな。敗けた方は今晩の歩哨を全て引き受けるということにしよう。ゆっくり寝たかったら、気を抜かずにやるんだ。いいな」
 ブルーファルコンが勝ったのは言うまでもない。

 翌日の模擬戦は中尉が約束した通り、彼らの学生時代のグルーピングによるチーム編成がなされた。
 いわく、ウォーカーとブラウン、タカハシとアヤセ、シェルヴィとウェイブ、エルガーとサラヴァンディ、ヴェルダンとアンダーソン、マイケルとバンディーニであり、前三組がレッドイーグル、後ろ三組がブルーファルコンという編成となった。

「さて、今日は戦場を昨日より拡げて、この基地全域とし、さらに、両チームともがオフェンスとディフェンスを兼ねるものとする。フラッグマンはこの作業デッキと反対側のデッキに陣取る。ミッションのタイムリミットは二時間延長して三時間だ。それ以外のルールは昨日と同じ。ではブルーは反対側へ移動だ。開始は今から十五分後の0800とする。さぁ、もたもたするな」

 ブルーファルコンのメンバーは、第二級戦闘装備に身を包んで、基地全体を縦貫しているセンターシャフトへ向かうため、リフトに乗り込んだ。
 この基地は、センターシャフトを中心に、回転することによって重力を得ている。そのため、センターシャフトに近づくにつれて重力が弱くなり、シャフトの中では完全に無重力になる。ギャリソン中尉以下の七名は、シャフト内に取り付けられたパーソナルキャリアーを使って泳ぐように反対側のデッキへと移動した。

 0800になった。
 フラッグマンのバンディーニと直掩のマイケル、それに中尉を残して、オフェンスチームの四名は反対側のデッキへと向かった。
 候補生達はそれぞれパーソナル発信機を持っていて、味方の位置は分かるようになっている。審判の中尉と軍曹は、もちろん両チームの全員の位置が分かる。

 アンダーソンとヴェルダンは、四つに分けられたブロックのうち、Bブロックの外壁伝いに移動していた。
 もう一方のエルガーとサラヴァンディは、センターシャフトを挟んで、ちょうど反対側にあたるDブロックを進んでいるはずだった。

 時刻は0820、即ちミッションがスタートしてから二十分過ぎたとき、中尉が見ていた可搬型モニターから、アンダーソンとヴェルダンを示すブルーの光点が同時に消えた。
 すかさずヴェルダンから緊急回線で、中尉宛てにコールが入った。
「ヴェルダンです。すいません。非常用のスプリンクラーのスイッチを誤って押してしまって、発信機を水浸しにしてしまいました。幸いトランシーバーの方は無事ですので、必要なときはコール願います。以上」

「野郎、何か企んでいやがるな」
 中尉は既にこれが単なる事故ではなく、仕組まれた事態であると直観的に判断していたが、何を意味するのかまでは判断がつきかねていた。
 案の定、Bブロック第21区画の片隅にいた二人は一滴の水も浴びてはいなかった。
「ねえ、ジャン。あんなこと言って大丈夫なの?すぐにばれるんじゃないの?」
 メロディが喘ぎながら言った。

「ばれたって構うもんか。せいぜい夜の歩哨か、飯の当番をくらうぐらいさ。それと引き換えならこっちのほうがはるかにいいぜ」
 顔を上げながら、ジャンが言った。二人は既に全裸だった。
「なんたって、もう五日もおあずけをくらってるんだからな」
 ジャンは再びメロディの太股の付根に顔を埋めた。

「あなたも好きなんだから」
 メロディはのけぞりながらもジャンの頭に手を廻し、自らに押し付けるように抱え込んだ。それから一時間余り、二人は複雑に体を入れ替えては、三回ほど絶頂に達した。
 一方、模擬戦の方はといえば、三回目とほぼ時間を同じくして、ブルーファルコンのエルガーとサラヴァンディがフラッグマンのウェイブをヒットして、あっさり勝負がついていた。

 勝負がついた時点で、中尉は集合信号を発信していたが、もちろんアンダーソンとヴェルダンの二人に届く筈もなかった。
 中尉が業を煮やし、信号が途絶えた地点、すなわちBブロック第21区画へと向かった頃に、アンダーソンとヴェルダンの二人はだるそうに体を起こし、衣服を身に付け始めたところだった。

「ねえ、あんなこと言っちゃったんだからさー、ほんとに水を浴びないとまずいんじゃない」
 メロディが言った。
「まあな、そのへんは抜かりないさ。スプリンクラーの位置は調査済みさ」
 ジャンはそう言うなり壁に近づくと、赤く塗られた四角い箱を思い切り叩いた。とたんに天井全体から滝のような水が降ってきた。ジャンとメロディはずぶ濡れになりながら踊っていたが、やがて水勢が急速に衰え、そして止んだ。センサーが異常のないことを感知して、栓を閉めたためだった。


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