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プロローグ


 そこは、コントロールルームだった。部屋の中が薄暗いのは、第2戦闘配備のため、照度を通常の20%に落としていたからだった。
 全部で6人の人間が、思い思いの格好でディスプレイ端末に向かっていた。

 全長800メートル、中心部の直径が400メートルにもわたる軍事基地を、これだけの人数でまかなえるのは、自動化が行き届いているのはもちろんのことであるが、それ以上に大きな理由は、ここが補給基地、それもいわゆるソフトイジュー、すなわち、衣類とか加工食品、それに郵便物などを専門に扱っているからだった。要するに、サービスが悪いの礼儀を知らんのと、ごたくを並べたてる厄介者を相手にする必要がないためである。

「Bブロック第21区画のアイスボックス8個を、第3作業甲板へ移動します」
 オペレーターの一人が報告した。
「よし。くれぐれも慎重に、な。しかし、なんだってうちみたいなB級ステーションに、こんな水爆並みのカーゴをまわしてくるんだ。まったくお偉方は何を考えているんだか…」
 基地の司令官とおぼしき人物が、吐き捨てるように呟いた。

「また、例によって『最高機密の特殊作戦』ってやつでしょう。なにせ、あれを使うということが、敵はおろか味方に知れただけでもびびっちまって、使いものにならなくなる兵隊が続出しますからね」
 すぐ隣にいた、副官と思われる男が言った。

「それにしたって、よりによってうちへまわすことはないだろう。小惑星帯のB級ステーションは、うち以外に8箇所もあるんだぞ。それを…」
 副官に食ってかかるように怒鳴り返した司令官は、だいぶ興奮しているようだった。
 が、当惑気味の副官の顔を見て、少し冷静さを取り戻した司令官は、きまりが悪そうに、
「だが、それもあと20分で終わりだ。ナビゲーション・オペレータ。補給艦は予定通り、こちらに向かっているんだろうな」
 司令官の怒鳴り声が、響いた。

「はい。予定通りです」
 オペレータが応えた。
「よし」
 司令官は、自分に言い聞かせるようにして、深々と椅子に座り込んだ。
 先程までの殺気だった雰囲気が、除々に収まりつつあったコントロールルームだった。
 だが、レーダ・オペレータの緊迫した声が、その空気を一瞬にして引き裂いた。

「高速飛行物体、急速に接近中。数は、3、いや、5です。コンピューターの識別結果は…、ミサイルです」
 オペレータの報告の最後は、ほとんど悲鳴に近かった。
「距離は?」
 司令官は先ほどとはうって変わって、落ち着いていた。なぜなら、B級ステーションなど攻撃しても、誰にも何の得もないことを熟知していたからだった。どうせ、近くを航行中の艦船に向けられたものに違いなかった。

 が、答えを聞いた司令官の顔は、一瞬で蒼白になった。
「ゼロですー」
 オペレータの絶叫が尾を引く中、コントロールルームは真っ白に輝いた。
 僅かな間をおいて大音響がこだましたが、そこにはその音に鼓膜を破られる人間は一人もいなかった。音はただ、漆黒の宇宙空間に虚しく吸い込まれていくのみだった。
 火星と木星の間の小惑星帯。その岩石のかけらの一つをくり抜いて作ったB級補給ステーション「アルバトロスG−3」。かくして、陥落したのである。

 8個のアイスボックスは、倉庫から作業甲板へ運ばれる途中のシャフトの中に、宙吊りの状態で浮かんでいた。
 3個のボックスは、爆発の衝撃で既にその機能を停止していた。しかし、残りの5個のボックスの制御パネルのランプは、依然グリーン色に輝いていた。それは、ボックスが正常に機能していることを示していた。

 薄暗いシャフトの中に浮かぶそのシルエットは、何故か棺桶を連想させた。だが、中に入っているのは死体ではなく、死体製造機なのだった。


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