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第一章


 深夜の都心で、その交通事故は発生した。
 無免許の少年がスピードを出し過ぎ、交差点で出合い頭に中形トラックと衝突したのだった。
(復元時の注:少年の車は赤のオープンスポーツ。勿論、隣に彼女。カーステレオガンガン。ちなみに二人とも即死。)

 トラックは激しく横転し、燃え上がった。
 その時、トラックの荷台から転がり出たシリンダ状のケースが、たまたま点検のために開けてあったマンホールから、下水へと落ちていった。

 事故自体はありふれたものだったが、事故に巻き込まれた方のトラックの持ち主である医薬品会社、飛田製薬は、妙に非協力的だった。
 研究開発中の薬品を投与中の実験動物を輸送中だった、とだけ説明しただけで、これ以上は企業秘密の一点張りで、取りつく島もなかった。

 鑑識も調査の結果、とかげのようなは虫類が数匹積まれていたようだが、焼損が激しくてそれ以上は分からない、との結論を出すにとどまった。
 捜査が行き詰ると時を同じくして、なぜか警察上層部からの圧力により、この件は迷宮入りとなってしまった。

 事故の数日後、事故現場から数百メートル離れた地下共同溝。
 点検の作業をしていたアルバイト学生、工藤義雄は、そこで多数のネズミの残骸を見つけた。
 不審に思いはしたものの、ともかくも点検を続け、帰ろうとした時、下水の中をうごめく何ものかを発見した。

 引き上げてみると、それは体長20センチ位のとかげに似た生き物だった。
 都会の下水にはいろいろなものが流れ込む。とかげがいても不思議ではなかったが、彼はそれが珍しい種類であることに気づき、彼が師事する生物学・動物学の権威、石橋良介教授に見せることにした。

 石橋教授は工藤によって持ち込まれたその生き物を鑑定したが、結局、彼にも種類が分からず、しばらく飼って様子を見ることにした。
 その世話をするのは、彼の研究室の助手を勤める大学院生、吉川美香だった。
 美香は愛情を持って、その生き物の面倒を見るのだった。

 一週間後、その生き物は50センチ位に成長した。が、依然その正体は不明のままだった。
 時々攻撃的なそぶりを見せるものの、彼女にはよくなついていた。


 殿村英二は、フリーのルポライターである。そして、美香の恋人でもある。
 彼は、飛田製薬を追っていた。
 飛田製薬は、最先端技術を持つバイオテクノロジ会社である。が、そのバックには謎の人物、大源寺鉄山がいた。
 更に学会を追放された異端の科学者、門脇 昭(しょう)も関わりがあるという。
(復元時の注:飛田を追っている理由は、大源寺との因縁話。内容は忘れました(^^;)ゝ。)

 そんな時、飛田製薬の車が事故を起こした。
 何かある、という直感のもと、英二は独自に調査をはじめた。
 彼は友人の刑事、有田謙作に情報を求めたが、守秘義務があるので、たとえ友人でもあれこれ喋る訳にはいかない。
 わずかに、圧力があったことだけを聞き出した英二は、益々疑惑の念を強めるのだった。

 その生き物を調べるため、X線で写真をとることにした石橋教授は装置にかけた。
 その時、手違いで照射量を100倍にしてしまった。
 それでも、その生き物は何ともなかった。
 ひとまずほっとした教授と美香は、生き物を研究室内のいつもの檻に入れて帰った。

 その夜、大学内を見回った警備員は、生き物が収められた檻のある部屋から、無気味な声を聞いた。
 ドアを開いてみると、なんとそこにいたのは等身大のGだった。
 Gは実験動物を食べていた。
 驚いた警備員は大急ぎで詰所へ帰り、警察へ電話した。

 警察は機動隊を出動させ、大学の建物を取り囲みはしたものの、どう手を出していいか分からなかった。下手に刺激すると、小さいとはいえ、どんな反撃を喰らうか分からないからだ。
 やがて、教授、美香、それに美香と一緒に食事中だった英二も姿を見せた。

 報道陣でごった返す中、たまたま美香達の近くにいた取材記者の一人が、Gが実験動物を喰っているという話を聞いて「腹が一杯になったら眠ってくれればいいが(復元時の注:関西弁がいいですね。)」と呟いた。
 その一言を聞いて、彼女は一つのアイデアを思いついた。

 Gは変温動物である。温度が下がれば冬眠するはずである。だから冷凍室にGを誘い込み、温度を下げてやればいい。問題はどうやって冷凍室に誘い込むかだ。
 その役を、美香がかって出た。発案者ということもあったが、彼女にはあのおとなしかったイメージが強く残っていて、自分には危害を加えないだろうという予感があったのだ。

 案の定、実験室に入っていった彼女を見ても、Gは襲いかかってこなかった。
 彼女は優しく話しかけ、Gを同じ建物内にある実験用冷凍室へと導いていった。
 部屋へ入ると、彼女自ら防寒着を着込み、Gと部屋に残った。

 周囲の人々が不安そうに見守る中、温度の降下が始まった。
 Gはややけげんな表情を見せたものの、動かなかった。彼女を信頼しているようだった。
 やがてGは眠りはじめた。同時に彼女も、ほっとして気が弛んだのと寒さとで、気を失った。


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